2015年7月30日木曜日

ESCAPE番外編SS―『かりそめ』(第三話)

ESCAPEの番外編
『Aquarius』 の雨宮教授と岬伊織の、その後

TAG index
ESCAPE本編はこちら









― かりそめ ― 第三話

続きからどうぞ↓









「…… 伊織、着れたかい?」

 不意に呼ばれて振り向くと、すぐ傍に教授が立っていた。

「あ、はい。でもなんだか上手く着れなくて。」

 僕は慌てて教授から目線を外し、襟を整える振りをした。今考えていたことは、教授には知られたくない。

 教授がこの上なく愛した弟に嫉妬しているなんて。もう死んでしまっている人に嫉妬しているなんて。

 そんなことを考えていることが、顔に出てしまっていないか心配だった。

 顔を上げることができない僕の胸元に教授の手が伸びてきて、繊細な指が浴衣の合わせを整える。

 きっちりと合わせえてくれた襟は、教授のそれとは全然違っていた。

「とても似合っているよ。」

 ーー とても似合っているよ、潤。

 僕にはそう聞こえてしまう。

 教授とこういう関係になった時から分かっていた。僕はそれを承知の上で此処に居るのに。

 それでも…

 教授と学生の関係を崩さずにいた時、僕のことを『岬くん』と呼んでいた教授が、

 初めて僕を抱いてくれた時は、『潤』と何度も呼んでいた教授が、

 今は、ぎこちなくても『伊織』と、名前を呼んでくれることが嬉しくて、もしかしたら…と少しばかりの期待をしてしまっている。


「こっちへおいで。今夜は月が綺麗だよ。」

 先に行ってしまった教授に呼ばれて居間から四畳半の続き間を抜けると、教授は掃き出し窓を開けた広縁に腰掛けていた。

 夜空には、満月になる前の少し欠けた月が蒼白い光を放っている。

 室内の広縁から屋外へ繋がる濡れ縁に、線香を焚いた蚊遣り豚が置かれていて、軒先の風鈴が微風に揺れている。

 夜になってもまだ暑いけれど、それだけのことで幾分涼しく感じる。

 教授の隣に腰を下ろすと、「飲むかい?」と、冷たく冷えた缶ビールを差し出してくれた。




第四話←→第二話

目次 


(つづきます・・・)

ぽちっと↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ

0 件のコメント:

コメントを投稿