2015年8月17日月曜日

ESCAPE番外編―『かりそめ』(第十話)

ESCAPEの番外編
『Aquarius』 の雨宮教授と岬伊織の、その後

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― かりそめ ― 第十話

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 僕が潤さんに似ているから…、だから教授は僕を抱いてくれる。

 だから僕は、教授の傍にいることができる。

 それだけが教授と僕を繋ぐ、ただひとつの理由だった。

 ―― 僕は逃げない…… 二度と離れなたりしない。 あの時、僕は教授にそう誓ったのに。

 ずっと一緒に居させて……。弟さんの代わりでいいから。

 僕は、貴方の手で殺されて、生まれ変わるんだ。

 貴方の弟として ――


  新しい季節の訪れと共に、あの時、僕は生まれ変わったつもりでいた。


 『伊織』と、ぎこちなく呼んでくれるようになったのが、少し擽ったいけど嬉しくて。

 でも、教授の中の僕が、僕に戻っていってしまうのが、怖かった。

 いつだって僕の望みは、ただひとつ。

 たったひと時でいいから、教授に愛されるただひとりの人になりたいと願っていた。

 たったひと時でいいから、僕は、雨宮 潤になりたいと願っていた。


「伊織?」

 優しい手が僕の背中を抱きしめて、甘く低く響く声が、頭の上から落とされて、一層激しく打ち上げられる花火の音に重なった。

 居た堪れない気持ちが押し寄せてくる。

「…… あ、浴衣の汚れを早く落とさないと……」

 そう言って、繋いだ身体を離そうとした僕を、教授が背中に回した腕に力を込めて引き留めた。

「… あ…ッ」

 また身体が深く沈み込み、まだ中にいる教授の形をはっきりと感じてしまう。

「…… 浴衣は、いいから」

「…… でも……、シミになってしまったら…、」

「いいよ。この浴衣は、今年で最後にするから」

 ―― え……?

 それは、どういう意味なんだろう。

 この浴衣を着ても、僕が潤さんの代わりになれなかったから?

 もう来年は、僕がこの浴衣を着る必要がないということ?

 心臓が痛いくらいに早鐘を打ち始めて、不安な予感が込み上げてくる。

 教授の口から出る、次の言葉を訊くのが怖かった。

「…… 伊織」

 名前を呼ばれても、俯いたまま顔を上げることも出来ずにいる僕の髪を、教授の指が梳くように撫でていた。

「もう…、潤の真似をするのは、やめなさい」

「…… !」

 心臓が止まってしまったように苦しくて、僕は声を失ってしまい、代わりに堪えていた涙が次々と溢れて、教授の浴衣の肩を濡らしてしまっていた。
 

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(つづきます・・・)

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