2015年8月20日木曜日

ESCAPE番外編―かりそめ―(12)

ESCAPEの番外編
『Aquarius』 の雨宮教授と岬伊織の、その後

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― かりそめ ― 第十二話

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「…… え?」

 教授は、僕の頬を伝う涙を指先で拭いながら、少し困ったように微笑んでいた。

「最初は、潤に似ている君のことが気になって、気が付けばいつも目で追っていた。駄目だと頭では分かっていたのに、それでも俺は、ずっと君に潤を重ねて見ていたんだ」

 そう話す教授の瞳が微かに翳る。

 知っていた。いつもどこからか誰かの視線を感じて、顔を上げるといつもそこには教授がいた。

 そして、必ずその漆黒の瞳と目が合うのに、教授は何もなかったように直ぐに逸らしてしまう。

 あれは、僕を見ているのじゃなくて、潤さんを見ていたんだ。

「そしてあの日、とうとう俺は君を身代わりに……」

 教授は辛そうに眉を寄せ、そこで一旦言葉を途切らせて息を吐く。

「でも…君は潤じゃない」

 潤じゃない、という言葉に胸が締め付けられる。

「そのことを、あの時教えてくれたのは、君だよ、伊織」


 ―― 愛してます、兄さん。


「潤は、俺を愛してはいなかったから」


 知らなかった……。

 あの時、雨宮 潤になろうとして言った言葉が、逆に教授に気付かせてしまっていたなんて。

 僕が要らない存在だってことを。

「だから、あの日から俺は気付くことができたんだよ」

 教授の言葉を訊きながらも、僕はどうしようもなく不安に駆られていた。

 だからもう、此処に居る必要はないんだよと、言われるのが怖い。

 両の掌で頬を包まれたまま目線を合わせられて、僕は願うようにその瞳を見つめ返していた。

 ―― どうか、貴方の傍にずっと居させて。 愛されてなくてもいいから。

「潤は俺のことを、こんなに愛で満ちた眼差しで見てはくれないよ」

 教授はそう言って、ふっと優しく微笑むと、僕の眼尻に口付けをくれた。

「いつも真面目に課題に取り組む、君の姿が好きだよ」

 …… え……?

 教授が言った言葉の意味を、すぐには理解できなかった。

 「少し冷めたように周りと距離を置いてるように見えても、実はさり気なく他人を気遣っていることも俺は知っているよ」

「…… 先生……」

 思わずそう言葉を漏らせば、教授の指先が僕の唇を優しくなぞる。

 心臓がドキリと高鳴った。

「『先生』と呼んでくれる、君の少しハスキーな高い声が好きだよ」

 また目頭が熱くなって、じわりと目の前に霞がかかってしまう。

 「こうして抱きしめると感じる、君の匂いが好きだよ」

 しなやかで逞しい腕にきつく抱きしめられて、瞬いた瞬間に熱い涙が溢れ落ちてしまった。

 「柔らかくて、少し癖のある色素の薄い髪も、俺は大好きだよ」

 僕の髪を指に絡めながら、甘くて低い声が耳元に響いた。

「潤と君を重ねて見ていた俺に、こんなことを言う資格はないのだけれど……」

 夜空に響く花火の打ち上げられる音が、忙しく鳴っているのに、不思議と苦しさを感じない。

 「今俺は、君を愛してるんだよ、伊織」



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(つづきます・・・)

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