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2015年8月22日土曜日

ESCAPE番外編―かりそめ―(14)完結

ESCAPEの番外編
『Aquarius』 の雨宮教授と岬伊織の、その後

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ESCAPE本編はこちら









― かりそめ ― 第十四話

続きからどうぞ↓






 きっとラストの花火なんだろう、一番高く上がった花火の一部が、此処からでも大きく見えて、そして消えていく。

「来年は、伊織に似合う浴衣の生地を染めよう」

 夜空を見上げていた僕の耳元に、教授の柔らかな低い声が囁いた。

「…… え?」

 驚いて振り向けば、甘く唇を啄ばまれる。

「今年は……、間に合わなかったから」

「…… 先生……」

  幸福な涙で、また頬が濡れていく

 ―― ああ……、こんなに嬉しい言葉は他にない。

「…… その浴衣を着て、来年は先生と花火大会に行ってみたい」

 きっと、これからは花火の音に怯える夜は、もうこない。幸せな思い出とすり替わったから。

「そうだね」と、教授は優しく微笑んで、僕の頬の涙を拭ってくれる。

 その指に僕の指を絡めて、そっと唇を寄せた。

 長くて繊細な指は、父さんとよく似ている。

 一房落ちた前髪を、その指で神経質そうに掻き上げる仕草も。

 他の人と重ねて見ていたのは、僕も同じ。

 未来なんて、どうなるか誰にも分からないけれど、もしもこの先に何があっても、

 今、お互いが相手を想い愛している、この瞬間があるのだから、きっと後悔なんてしない。

 *****

 お盆を岬の実家で過ごして帰ってくると、居間と襖を隔てた四畳半の続き間に、小さな仏壇が置かれていた。

 本尊は置かず、略式だけれど、其処には教授の心が込められていた。

 ―― 故人の死を受け入れ、故人が確かに存在していたことを忘れないように。

 教授はそう言って、手前に置かれている写真を見つめていた。

『君は、潤じゃない』

 花火の夜に言ってくれた言葉が、今更に胸に沁みてくる。

 教授は、そんな僕を、包むように抱きしめて、触れるだけの口付けをくれる。

「愛してるよ、伊織。」

「僕も、僕も先生を愛してる。」

 今がとても幸せで、心は満たされている。

 怖いくらいに。


 ー かりそめ ー end
 2015/08/22


 完結いたしました≦(._.)≧ ペコ
ここまでのお付き合い、ありがとうございます。
ESCAPEの番外編は、また少しずつちびちびと書いていこうと思っています。
教授と伊織の今後もですが、伊織の中学、高校生辺りのエピソードなんかも、また書きたいと思います。


第十三話

目次 


(ありがとうございました。)

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