『Aquarius』 の雨宮教授と岬伊織の、その後
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― かりそめ ― 第十四話
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きっとラストの花火なんだろう、一番高く上がった花火の一部が、此処からでも大きく見えて、そして消えていく。
「来年は、伊織に似合う浴衣の生地を染めよう」
夜空を見上げていた僕の耳元に、教授の柔らかな低い声が囁いた。
「…… え?」
驚いて振り向けば、甘く唇を啄ばまれる。
「今年は……、間に合わなかったから」
「…… 先生……」
幸福な涙で、また頬が濡れていく
―― ああ……、こんなに嬉しい言葉は他にない。
「…… その浴衣を着て、来年は先生と花火大会に行ってみたい」
きっと、これからは花火の音に怯える夜は、もうこない。幸せな思い出とすり替わったから。
「そうだね」と、教授は優しく微笑んで、僕の頬の涙を拭ってくれる。
その指に僕の指を絡めて、そっと唇を寄せた。
長くて繊細な指は、父さんとよく似ている。
一房落ちた前髪を、その指で神経質そうに掻き上げる仕草も。
他の人と重ねて見ていたのは、僕も同じ。
未来なんて、どうなるか誰にも分からないけれど、もしもこの先に何があっても、
今、お互いが相手を想い愛している、この瞬間があるのだから、きっと後悔なんてしない。
*****
お盆を岬の実家で過ごして帰ってくると、居間と襖を隔てた四畳半の続き間に、小さな仏壇が置かれていた。
本尊は置かず、略式だけれど、其処には教授の心が込められていた。
―― 故人の死を受け入れ、故人が確かに存在していたことを忘れないように。
教授はそう言って、手前に置かれている写真を見つめていた。
『君は、潤じゃない』
花火の夜に言ってくれた言葉が、今更に胸に沁みてくる。
教授は、そんな僕を、包むように抱きしめて、触れるだけの口付けをくれる。
「愛してるよ、伊織。」
「僕も、僕も先生を愛してる。」
今がとても幸せで、心は満たされている。
怖いくらいに。
ー かりそめ ー end
2015/08/22
完結いたしました≦(._.)≧ ペコ
ここまでのお付き合い、ありがとうございます。
ESCAPEの番外編は、また少しずつちびちびと書いていこうと思っています。
教授と伊織の今後もですが、伊織の中学、高校生辺りのエピソードなんかも、また書きたいと思います。
→第十三話
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(ありがとうございました。)
ぽちっと↓
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