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2015年11月11日水曜日

『続きは家に帰ってから。』(出逢えた幸せ-番外編SS)


ポッキーの日ということで、

『出逢えた幸せ』の番外編SSです。

透×直

2000字弱です。

↓からどうぞ。







「今日はポッキーの日だから、ポッキーゲーム!」

と、誰かが叫んだ。

 当たり前のように、男女交互に座った居酒屋のテーブル。

 人数合わせの為にと、無理やり参加させられた、いわゆる合コンってやつ。

 ― いやだなぁ…。

 隣の女の子は可愛いんだけど…だけど…。

 最初の二人が向き合って、一本のポッキーの端を互いに咥えて食べ進んでいく。

 あー、そんなに食べたら後が続かないだろう?

 じゃんけんに負けた俺は、不幸なことに最後に回ってきたポッキーを食べることになる。

 そう、隣に座っている可愛い女の子と。

 昔の俺なら、こういう席では率先して参加していたけど。

 

「直くん、どうしよぉ~~、こんなに短くなっちゃったよー。」


 マジ短い!


「こ、こんなのできるわけないよ!ねえ?」


 さりげなく、ギブしようよと、隣の女の子に目配せしたけれど…。


「早くやれよ、直!」


 飲み会が始まってから1時間半以上経ってて、みんな程よく酔いも回ってて、めちゃ盛り上がってて、なんて言うか…、これクライマックスってやつ?


「直くん、適当にやって誤魔化しちゃお。」


 可愛く首を傾げてそう言う今日初めて会ったばかりの彼女は、本当に可愛いんだけど!


「う…ん、」


 仕方なく短くなったポッキーを受け取って、唇に挟んだけど…


「ちょ、待って、やっぱりこんなの無理だよ。」


 唇に挟んでみたら、思っていたよりも短いことに気付いて慌てて離して、幹事の奴に差し出した。


「だめー、やらなかったら、さらに罰ゲームだからなー。」


「私なら、いいよ?直くん、はい。」


 俺の手から短いポッキーを奪うと、彼女は可愛らしい唇にそれを挟んで、目を瞑った。


 ―― あぁああもう!仕方ない!


 ちょっとだけ、そうだ、ちょっとだけかじってすぐに離せばいいんだ。

 俺は決死の覚悟で、彼女が唇に挟んだ反対側のポッキーの端へ、唇をゆっくりと近づけていく。

 少しでも間違えたら、唇が触れてしまいそうな距離。

 ―― うう、ち、近いっ!

 薄めを開けて確認してたら、「目ぇ閉じてろよ、直!」って、すぐに突っ込まれる。


 ―― ああっ、くそっ!なんとでもなれ!


 そう思ったその時だった。


「…あれ?直くん?」


 聞き覚えのある優しくて甘い声。


 ドキリと心臓が口から出そうになって、俺は思わず飛び跳ねるように、女の子から離れて、恐る恐る声のした方を振り返った。


「… と、透さん…!!」


 そこには、いつものようにスーツをビシッと着こなした、俺の恋人…透さんが立っていた。


「何してるの?合コン?」


「あああ、ええええっと…あの…、ぽ、ぽ、」


「ぽ?」


「あ、ああ!そう、ポッキーゲームをしてて、次俺の番だから、その、もう短いからギブしようとしてたとこ!」


 ― ああ、俺、何言ってんの。弁解にも何にもなってねぇ!


「ふーん、ポッキーゲームね。」


 そう言って、透さんは女の子に近づいて、その短いポッキーを取り上げてしまった。



「ほら、直くん咥えて? ちゃんと最後までやらなきゃね。」


「え?え?」


 ただ驚いて、素っ頓狂な声を出している俺の唇に、透さんは、その短いポッキーを咥えさせた。


 そして、少し首を傾げるようにして、俺と目線を合わせると、反対側のポッキーの端を…透さんが咥えて…


「――― !!!」


 最後にチュッとリップ音を立てて、離れていく透さん。


 周りの皆も呆気に取られて声も出せずに、この状況を眺めているだけだった。


「じゃ、ポッキーゲームも無事終わったし、ごめんね、彼、連れて行ってもいいかな。」


「……へ?は、はい、どうぞどうぞ。」


 幹事の奴が、慌ててそう応えると、透さんは「ありがとう。」と、艶然と微笑んで俺の手首を掴んで歩き出した。


「あ、あの…、透さんっ?」



 店を出てからも、ずっと俺の手首を掴んだままで、無言でスタスタ歩いて行くから、



「も、もしかして、怒ってる?」


 恐る恐るそう声をかけると、ピタリと足を止めて、俺を振り返る。

 いつも優しい漆黒の瞳が、少し怒ってるようにも見えるけど、暗くてよく分からない。


「うん、そうだね。怒ってるかもしれない。」


 そう言うと、また俺の手を掴んで、足早に細い路地へと入っていく。


「透さん…ッ、」


 街灯の無い暗がりで抱きすくめられて、声は唇で塞がれた。


 アルコールで少し熱くなっていた身体の温度が、もうこれ以上ないくらいに熱くなってく。

 もう立っていられないくらいに、深くて甘いキスだった。


「ちょっとだけ、妬けたかもしれない。」


「…え?」


 訊き返した俺に、応えはくれず、もう一度触れるだけの口づけをくれる。


「続きは、家に帰ってからね。」


 そう言って、俺の鼻先を指で弾いた。


「うん。」


 なんだか、すごく顔が熱い。


 ――――――――――



―『続きは家に帰ってから。』
   
  END

 2015/11/11



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