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第二章:迷う心とタバコ味の……(6)
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あの夜のことは、もう忘れよう。
そうだよ、別に大したことないし。 ただセックスしただけだし。 お互い気持ちよかったんだし。
いつもと違ったのは、相手が男だったってだけで……。 いい経験させてもらったって、思ってればいいんだ。
それで終わり。 また次、なんてありえない。
なのに、何でこう、透さんのことばかり、思い出しちゃったりするのかな。
…… どうかしてる。
目を閉じれば、浮かぶのは、透さんの漆黒の瞳。
――直…… と、甘い声で囁いて、唇を重ねる。
程よく筋肉がついた、しなやかな身体。
真っ直ぐに伸びている美しい鎖骨。
触れたくて、手を伸ばしてるのに、なかなか届かなくて、焦れったくて、
「…… 透さん……」
名前を呼ぶと、優しく微笑んでくれる。
でも、目の前が霞んできて、よく見えなくて、段々消えていく、透さんの影。
――待って……、透さん。
透さん……
透さん……
「透さんっ!」
目を開けると、いつもの天井。
―― 夢かよっ!
もう忘れようと思ってるのに、気がつけば、透さんの事ばかり考えちゃうから、とうとう夢にまで出ちゃったよ!
あの朝、透さんの残したメモに書いてあった電話番号を、結局俺は自分の携帯に登録しなかった。
―― だって、俺から電話なんて出来ないよ……。
透さんにとっては、ただの気まぐれで……。
俺もきっとそう。
俺から電話をして、会ったとして…、それから? またセックスする?
それって、セフレって事でしょ?
確かにセフレな関係の女の子は、何人かいるけど…。
透さんとセフレなんて…嫌だ。
―― え?
セフレが嫌なのか?…… 俺。
「俺は……」
好き…… ? 透さんを?
「いやいやいやいや!」
男を好きになるのは、俺は…… ありえない!
今まで、女の子しか好きになった事な……、
―― え?
俺、今まで本気で相手を好きになった事って、あるのかな。
何人か、ちゃんと付き合った事はあるよ。勿論ちゃんと好きだったよな?
うん、好きだったよ、ちゃんと! ……長続きはしなかったけどさ……。
だから透さんを好きになるなんて…… ありえない。 透さんのことは、ただ……、憧れてるだけだから……。
憧れと恋愛は、違うよね?
「はぁ~」
考えても、分からないよっ。
ぶんぶんと、首を横に振って立ち上がる。
ふと、造り付けのクローゼットにはめ込まれている鏡が目に入った。
Tシャツの襟ぐりを、肌蹴させると、鎖骨のすぐ上に透さんの付けた赤い痕が、まだ残っている。
そっと指先で、赤い痕をなぞってみると途端に、あの夜のことが、頭を過ぎる。
熱の籠った眼差しや、濡れた唇。 何度もキスをして、咥内で縺れ合う舌や吐息。
汗ばんだ肌の上を、滑る指先。
思い出しながら、透さんに触れられた通りに自分の指を辿らせる。
目を閉じると、鮮やかに蘇る、その光景。
「……っ」
下半身に熱が集まり始めたと思ったら、あっと言う間に勃ってしまった。
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