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2017年4月1日土曜日

『出逢えた幸せ』第二章:迷う心とタバコ味の……(12)

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第二章:迷う心とタバコ味の……(12)



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 *****


 なんだか……暖かくて、気持ちいい……。

 朝なのかな…。 でも、もう少し寝ていたい…。


 ゆっくりと、重い瞼を薄く開けてみたら、目の前に…… チャコールグレーのTシャツを着ている誰かの胸が見えた。

 目線を上へと辿ると…透さんの寝顔。


 ―― あ……、そうか。 昨夜、透さんと……。


 俺をしっかりと、抱きかかえるようにして眠ってる透さんの胸に、顔を埋めて寝てたのか、俺……。


 ―― まるで、女の子みたいじゃん!


 でも、あったかくて、気持ちいい原因は、これだったんだ。


 もう一度目線を上に向け、起こさないように、そっと、透さんの寝顔を見た。

 閉じた瞼を縁取る、真っ黒な睫が、濡れたように艶があって、いつもよりも長く感じる。

 程よい厚さの唇は、ゆるやかにカーブしていて、その両端に僅かな窪みがある。


 ―― 眠っているのに、微笑んでるみたいだな。


 そう思いながら、唇の形を、指でそっとなぞった。

 
 ―― ホントに、色が白いなぁ。


 肌の色は、透き通るように白くて、細面な輪郭に、黒くて艶のある髪が映える。


 ―― こうして見ると、透さんは、かっこいいと言うより美人だな……。



「あんまり、見つめないでくれる?」


目を閉じているのに、クスッと笑みをこぼして、俺をギュッと抱きしめてくる腕。


「透さん、起きてるの?」


「熱い視線を感じちゃってね」


 そう言って、透さんは俺の額に額をくっつけながら、目を開けて微笑んだ。

 寝起きだからか、漆黒の瞳が濡れたように艶めいている。


「おはよう」と、軽く唇にリップ音を立ててキスをくれる。


「おはよう」と、返して目を合わせるけど、俺はなんだか恥ずかしくて、すぐに俯いてしまう。


 透さんは、クスッと笑って、俺の頭を優しく撫でてくれる。


 ―― なんだか、甘い恋人同士の朝みたいだ。 …… なんて、思ってしまう。


 あの最中に微かに聞こえた、甘い言葉も、あれは透さんの本心かもしれないなんて、馬鹿な期待をしてしまう。


 ―― 『好きだよ……』


 そんなことは、ありえない。

 だって、透さんが好きな人は…… もう分かってるのに。

 あの最中の『好き』なんて言葉は、テンプレみたいなものだってことも、俺は知ってる。

 お互いが気持ちよくなるように、セックスを盛り上げる為の、ただの台詞でしょう?

 そんなの分かってる……。


 だから、一晩中俺を抱きしめて、寄り添って眠ってくれたことだって、朝になってもこうして優しくしてくれるのだって、期待しちゃいけないんだって分かってるし。

 俺だって、子供じゃないんだから、この暗黙のルールに乗るのは当たり前で……。

 恋人でもなくて、ゆきずりの他人でもない。 この、とても曖昧な関係を何て呼ぶんだろう。






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