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2017年11月2日木曜日

『出逢えた幸せ』第三章:身体と愛と涙味の……(32)

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第三章:身体と愛と涙味の……(32)



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 どれくらいの時間、こうしていたのか……。

 結局、下は何も穿かないまま冷たい床に座り込んで、膝の上に抱えたボールの中の苺を全部食べてしまっていた。

 一個食べるごとに、涙が出てきて、俺の涙腺はきっと壊れてるに違いない。

 ——なんでこんなに哀しいんだよ。 わけわかんねぇ。

 なんでこんな事になっちゃったのかな。 
 妹って…、なんだよ……。
 俺、一人で勘違いして…なんだか混乱して、あんな事、透さんに言っちゃって……。

 ——他に好きな人がいるのに、俺を抱いたくせにッ―――

 でも……、透さんは俺の事、どう思ってたんだよ……。それから、俺も…… 透さんの事……。

「はぁ……」

 何もする気にならなくて、出るのは溜め息だけ。

 このまま朝まで、ここに座っていたら身体が痛くなるかなぁ……なんて、馬鹿な事考えていたら……突然、玄関のドアをノックする音がして、驚きで身体が跳ねた。

 ——まさか……透さんが戻ってきた?! ……な、わけないよな。

 一応マンションの1階の自動ドアは、暗証番号入れないと開かないはずだから、きっと啓太だ。

 同じマンションの4階に住んでいる啓太なら、直接部屋に来てもおかしくないし……。

 でも今は誰とも会いたくなかった。
 ——俺は今、出掛けていていないんだ。ごめん啓太、帰ってくれ! 後で電話するからっ。

 なのに、玄関のドアが開く音がする。

 —— しまった!鍵かけてなかったんだ!

 俺はギョッとして玄関の方に目を向けた。

「……痛みと腫れに効く、軟膏は必要じゃないですかー?」

 惚けた声で惚けた事を言いながら小さいチューブを手に、その人は玄関のドアにもたれて立っていた。

「……何してんの、みっきー」

 俺を送った足で、店に行くと言っていたみっきーが、何故ここに居るんだ?

「んーー、まぁ、ちょっと心配だったから?」

 言いながら、靴を脱いで部屋に入ってくる。

「どうやって入ったの? 1階の入り口、暗証番号が必要なんだけど」

「ああ、ここの住人かな? ちょうど入っていくとこだったから、一緒に後ろから入っちゃった。で、部屋番号は、下の郵便ポストで調べてきた」

 なんだか明るい笑顔で話すみっきーに、ちょっとだけ心が和んで、思わず小さな笑いが漏れた。

「それより、どうしちゃったの、そんな格好して……、やっぱりこれ必要でしょう?」

 言いながら、軟膏のチューブを差し出すみっきー。

「いらないってば、痛くないしっ」

「まぁまぁ、明日になったら、また痛くなる事もあるから」

 断ったのに、俺の手に無理やりチューブを握らせられた。

「……つか、店は? 行かなかったの?」

「ああ、うーん、透さん? 1時間待って出てこなかったら、もう店に行くつもりだったんだけど……、1時間しないうちに出てきたから……様子見に来ちゃった。店は他のスタッフいるから連絡しておいたし」

「……そっか……、やっぱりあの時気が付いていたんだね」

 車を降りる時、やっぱりみっきーは透さんに気が付いていて、わざとキスしてきたんだ。

「なんで、透さんだって分かったの?」

「そりゃ、わかるよ。車の外から一直線に、熱い視線が俺に突き刺さったからね」

 みっきーの悪びれない態度に、わざとキスしてきた事とか、どうでもよくなって、怒る気もしない……。

「ちゃんと自分の気持ち、確かめた?」

 そう言ってみっきーは、床に座り込んでいる俺の前でしゃがんで、顔を覗き込んでくる。

「ん? 何があった?」

 少し首を傾げて俺と目線を合わせ、大きな手で包んだ俺の頬を、親指だけ動かして何度も擦ってくる。
 まるで、涙の跡を消そうとしているみたいに。


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