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2021年10月15日金曜日

ESCAPE続編『Aquarius:2』―伊織―(21)

 

ESCAPEの続編
『Aquarius』 の直後です。

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ESCAPE続編『Aquarius:2』―伊織―(21)








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 全員の顔を把握はできないけれど、今日手伝いに入っている院生は10人くらい。

 お昼休憩や受付の交代をしながら、1階のバックスペースで、徐々に搬出作業を進めていった。

 まだ時間が早いので展示スペースはそのままに、梱包資材の準備をしておく。

 買い手のついた作品は、宅配サービスを利用するので、台帳をチェックしながら送り状を書いたり、それと同じ数のお礼状を封筒に入れて用意したり、やる事は結構あって、時間はあっという間に過ぎていく。

 今回は、個人で開催した規模的には小さな個展だったのに、雑誌の取材も来ていたりで教授も忙しそう。

 時々教授がバックスペースに顔を出し、院生の誰かに声をかける。

 朔さんが言ってたように、その呼び方は、名前だったり名字だったりニックネームだったり、様々だった。

 でも僕は――――

 やっぱり名前で呼ばれてみたい。“岬くん”でもなく、“潤”でもなく。
 
 あの優しい声で、“伊織”と呼んでほしい。

 でも、もしもそうなったら……教授が僕を、僕の存在を認めてくれた事になるような気がして……それが少し怖いんだ。

 だって僕は……教授が愛するただ一人の存在になりたい。

 ……だから今は…………



 最終日だから、少し早めの17時には個展が終了し、宅配サービス業者が集荷に来て、レンタルした什器は業者が引き取りに来た。

 ほぼ完売で、残りの作品は少なかったけど、綺麗に梱包して朔さんが運転するバンに運び込み、搬出作業はスムーズに完了した。

「先生、作品は大学のアトリエに運べばいいですか?」

 朔さんが最後に数のチェックをして、教授に声をかける。

「ああ、メインと岬の絵だけ悪いけど俺の家で降ろしてくれるか?」

 メインの絵は『Aquarius』。

 『岬』の絵は、潤さんが亡くなった場所。

 潤さんは、教授と一緒にあの家に帰る。

 きっと教授の想いは片時もあの絵から離れることはないのだろう。これからもずっと。

「はい。分かりました」

 朔さんが教授に応えてから、僕の方へ視線を送ってくる。

「岬くん、こっち乗る? 大学で作品降ろしたら送っていくし」

「え、えっと僕は……」

 ――――どうしよう。先生の車に乗るとは、言いにくい。しかも僕は今夜からあの家で暮らすのに。でも、そんな事言えるわけがないし、このまま電車で帰ると言った方がいいのか迷う。
 
 言い淀んでいると、教授が僕の肩を抱き寄せた。

「ああ、いいんだ。この子は俺が送っていくから」





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