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第一章:聖夜と生クリーム味の……(6)
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「直、クリスマスイブの日ってバイト入れる?」
オーナーシェフの相田さんが申し訳なさそうな顔をして、訊いてきた。
「イブの日?大丈夫ですよ」
特に予定は無い。悲しいけど、無い。
「ごめんね、どうしても休みたいって子がいて、回らなくなったんだ。8時くらいまででいいから、入ってくれる?」
「いいですよ、俺、予定ないですから、何時まででも!」
「本当にいいの?イブだよ?デートの予定とかないの?」
「そんな予定、ないですよ」
「…… 本当に?」
それでもまだ、疑うような眼差しを向けてくる相田さんに、思わず苦笑してしまう。
「大丈夫ですよ、ちゃんと入りますから」
こうして今年のクリスマスイブは、バイトで終わる事になった。
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―― そしてクリスマスイブ当日。
店の周りはオフィスが多い為、普段なら日曜は定休日で、祝日も休業にする事が多い。
だけど、今年のイブは振り替え休日と言う事もあり、最初は休日にするつもりだったのが、団体の予約が入った為、ついでに開ける事にしたらしい。
団体客は2時間程度だったんだけど、案外それ以外の客も多くて、結構忙しかったりして、あっと言う間に午後8時になった。
「直、お疲れ。今日はありがとな。あがっていいよ」
「はい!じゃ、お先にあがりますー。お疲れっした」
いつもより忙しかったこともあって、今日はやっぱり疲れてる。やっと帰れると思うと、嬉しくてちょっと声のトーンが上がった。
クリスマスイブなんて、特定の彼女なんていない俺には全然関係ない。早く帰ってゲームでもしたいなんて思う。
あ、その前にどこかで飯食って帰ろうか、なんて考えながらスタッフルームに入ろうと、ドアノブに手をかけたところで、
「あ、そうだ!ちょっと待って」と、相田さんに呼び止められた。
相田さんは、赤と緑にゴールドのストライプのリボンをかけたケーキを入れる箱を差し出して、ニコニコしてる。
「これ、今日急にバイト頼んだお礼。」
「え?」
「小さいけど、一応クリスマスケーキな」
「ええっ?いいんですか?!」
ここのケーキ、本当に美味しいから嬉しいんだけど、閉店までまだ時間あるのに、バイトに入っただけで、貰っちゃっていいのかな。
「あぁ、ちょっと余りそうだしね。もったいないから。今からデートとかじゃないの?彼女と食べなよ」
「いえ……、デートの予定なんてないって、言ったじゃないですか」
「またまた……、バイト頼まれて断れなかったんでしょ?気を遣わなくてもいいよ。直なら絶対周りの女の子が放っておかないって分かるし」
もう絶対この後、俺が彼女とデートするって、信じて疑わない相田さん。
「いやいや……、本当に俺、彼女いないんですけど……」
なんか逆に気を遣わせてしまったようで申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
「本当に? じゃ、直は一人暮らしだし、ホールケーキじゃ却って迷惑だよね」
「でもでも、これ貰ってもいいですか?これから友達んちに行こうかなと思って。そいつも彼女いなくて、寂しいイブかもだから、このケーキ持って押しかけてみます」
ふと、最近彼女に振られたってしょげていた、腐れ縁の幼馴染の顔が浮かんできて、様子でも見に行ってやるかと考えて、そう応えた。
「そう言うのも、楽しそうでいいかもね」
そう言って、相田さんはにっこりと笑ってくれる。
「じゃ、遠慮なくいただきます。ありがとうございます!」
俺がケーキを受け取ると、「楽しいイブを!お疲れさま!」と、相田さんは、俺にウィンクして仕事に戻って行った。
オーナーシェフの相田さんを始め、ここのスタッフは皆優しい。そりゃ怒られる事も多いけど、アットホームで暖かいんだ。
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