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2017年3月10日金曜日

『出逢えた幸せ』第一章:聖夜と生クリーム味の……(5)


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第一章:聖夜と生クリーム味の……(5)





 「ありがとうございました」


 二人がこの店でお茶をするのは、いつだって、ほんの30分くらい。週に一度の、たったこれだけの時間なのに、心に残って忘れられない。

 店を出て駐車場まで歩いて行く二人を、俺は何気なく窓越しに見送った。

 店の窓から漏れる白熱灯の灯りに照らされて、二人の影が近付いて、女性がさりげなくあの人の腕に腕を絡めて……。

 恋人同士なら、当たり前だ。なのに、何故か胸の奥にツンと、小さな痛みのようなものを感じてしまう。

 そして、二人は一旦立ち止まって、男性は少し屈んで女性の顔を覗き込んでいる。


「…… ?」


 遠目だし、はっきり分からないけど、女性が泣いているみたい。あの人は、女性の頭に優しく手を置いて……、慰めているのかな。そして漸く顔を上げた女性と見つめ合っていた。

 助手席側のドアを開けて、女性を先に車に乗せてから、あの人も運転席に乗り込んで、エンジン音が聞こえた。

 そんな動作もすごく自然で、絵になる二人だと思う。

 車が駐車場を出て、夜の街に消えていくのを眺めながら、俺は心の中で、憧れと……、なんとなく嫉妬のような気持ちが混ざり合っている事に、戸惑っていた。



 *****


 もうすぐクリスマス。

 街は賑やかに、クリスマスの飾りが溢れ出し、12月の慌ただしさを感じられるようになった頃、あのカップルが、姿を見せなくなった。

 いや、正確に言うと……、女性だけが来なくなったんだ。
 男性だけが一人で来店して、そしていつもコーヒーだけ飲んで帰っていく。


「どうしたのかなぁ」

 
 そういえば……、最後に見た時、女性は泣いているようだった。
 やっぱりあれは、喧嘩でもしていたのかな。
 でも、すぐに仲良さげに車に乗ったしなぁ。
 少し……、いや、かなり気にはなるけれど……。


「いつものお連れ様、どうされたのですか?」


 なんて、訊けるわけないし!
 ―― まぁ俺は、彼に会えるだけで……


「……」


 ―― ちがーうっ!

 そうじゃなくて!
 断じて、憧れだから…… ! ただ見てるだけで幸せっていうか……

 いや!だから、そー言うんじゃなくてっ!!!

 こないだから、この訳のわからない気持ちに、かなり困惑してるんだけど。
 考えても分からないから、そんな気持ちは心の片隅に追いやろうとしていた。






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