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第二章:迷う心とタバコ味の……(3)
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顔を洗おうと思って、洗面所に向かう。
冷たい水で、火照った顔を冷やすように洗った。
棚に置いてあった、新しいタオルを一枚取って顔に当てる。
ふと、洗面台に置かれてる物に気がついて、動作がとまった。
ブルーの歯ブラシの横に、ピンクの歯ブラシが仲良く立ててある。
棚の隅には、化粧品。
「……」
きっと彼女の忘れ物だろう……。
なんとも言えない気持ちを抱えて、リビングに戻る。
透さんが残したメモの最後に書かれていた携帯番号を眺めて、自分の携帯を取り出した。
アドレス登録画面を表示させて、でも、そこで指が止まってしまった。
―― 昨夜の事は、ただの遊びだ。 透さんには、今でも忘れられない彼女がいる。
一度関係を持ったからって、恋人ってわけじゃない事くらい分かる。 俺だって、その場限りの関係を、今まで何度もしてきたじゃないか。
だから、今回もきっとそう……。
携帯番号を教えてもらって、それから、どうするんだ?
俺が透さんに連絡して…… そうしたら、どうなるんだ?
きっと透さんにとって……、昨夜の事は、ただの成り行き、何かの間違い、気の迷い、事故のようなもの。
俺にとっても……。
電話の横のメモホルダーに立ててあった、ペンを取る。
透さんが残したメモの一番下に、「サンドイッチ、ごちそうさま。ありがとうございました。 直」と書いた。
これでいい。
透さんだって、まさか本当に俺が連絡してくるなんて、思ってないに決まってる。
もう、透さんと店以外で、二人きりで会うことなんて、ないに決まってる。
もしかしたら、もう…… 店にも来なくなってしまうような気もするし……。
だから、これでいいんだ。
昨夜、抱かれている時に感じた、甘い感情は…… きっと……。
―― そう、透さんが上手かったからだっ!
そう考えないと、説明がつかない。
俺は自分に言い聞かせながら、寝室に戻り、のろのろと自分の服に着替えた。
―― それにしても…、透さんて、慣れてたような気がする。 もしかして、男の経験も、あったんだろうか……。
ふと、そんな事を考えると、また昨夜の事を思い出してしまって、顔が火照る。
俺は、慌てて部屋の鍵を取り、透さんの部屋を出てドアに鍵をかけ、メモに書いてあった通りに、ポストの中に入れた。
鍵が下に落ちる音が、なんだか終わりの合図のように、寂しく響いていた。
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