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2021年9月26日日曜日

ESCAPE続編『Aquarius:2』―伊織―(14)

 

ESCAPEの続編
『Aquarius』 の直後です。

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ESCAPE続編『Aquarius:2』―伊織―(14)









 迷いなく、きっぱりと言ってくれたあの言葉が、深く僕の胸に響いたことをよく覚えてる。

 僕はまだ、この人のことを名前以外で呼べないけれど……でも多分、あの時にもう僕は認めていたんだと思う。カズヤさんが僕の父親であるという事を。

 他の誰かの代わりでなく、僕自身を愛してほしい。その想いは今も変わらないけれど……。ふと教授の切なくて苦しそうな表情を思い浮かべると、胸の奥がツキンと痛んだ。

「沙織の写真も持っていくといいよ」

 僕が窓辺に置いた写真立てに視線を留めたままだったから、カズヤさんは気を利かせてそう言ってくれたのだろう。

「でも……それじゃカズヤさんが寂しいでしょ? 大丈夫、写真はパソコンに取り込んで持っていくから」

 元々そうするつもりだったんだけど、僕がそう言うと、カズヤさんは分かりやすいくらいに嬉しそうな顔をする。

「本当? 伊織はそれでいいの?」

「いいに決まってるでしょ」

 ――前にも同じようなことがあったな……。

 あれは、初めてこの写真をカズヤさんに見せた時だ。あの時も、誰にでも分かりやすいくらいに嬉しそうな顔をしていたな。

 カズヤさんの顔を見ながら、母さんは本当にこの人に愛されていたんだな……って思う。

「伊織……ひとつだけ言っておきたいことがある」

「……うん?」

 急に真剣な表情で僕に向き直ったカズヤさんに、僕も姿勢を正して視線を合わせた。

「前にも言ったけど、ぼくはずっと君の存在を知らなかったことを悔やんでいた。でも生まれてきてくれたこと、こうして出会えて一緒に暮らせたことを、心から幸せに思ってる」

 ――僕も……あの時、カズヤさんと出会って、一緒に暮らすことを選んで良かったと思う。この5年間の暮らしは、いつも穏やかで本当に幸せな毎日だった。面と向かってそんなことは言えないけど……。

「伊織は成長して大人になって、自分の道を歩いていくけれど、ぼくはこれから先もずっと、何が起こっても君の父親でいるつもりだから……だから何かあったら、いつでも相談してきなさい」

 ――それが、この家を出ていくための条件だよ。

 そう言葉を続けて、カズヤさんはいつもの穏やかな笑顔を浮かべた。





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