■Novel index■

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
【長編】
■『 ESCAPE』series index
■『出逢えた幸せ』
────────────
【短編】
■『うそつき』
────────────
TwitterリレーSS
■サクランボとクリスマス

2021年9月27日月曜日

ESCAPE続編『Aquarius:2』―伊織―(15)

 

ESCAPEの続編
『Aquarius』 の直後です。

TAG index
ESCAPE本編はこちら






ESCAPE series index


 

fjossyで読む←(先行して更新しています)

★ブログ版↓続きからどうぞ。

ESCAPE続編『Aquarius:2』―伊織―(15)










 ******

 翌日、早朝から迎えに来た秘書の人と、カズヤさんは朝食も食べずに出かけてしまった。

『伊織、何かあったらいつでも帰ってきていいんだからね? ここは君の家なんだからね』

 出かける間際まで、名残惜しむように、何度もそんな事を言っては僕をぎゅっと抱きしめた。

 まるで、僕がどこか遠くに行ってしまうみたいなんだけど……。

『教授の家は大学の近くで、ここから電車で一時間かからないし、車なら15分くらいの距離なんだから、いつでも会えるよ』

 僕がそう言うと、漸く安心した顔で『そうだったね』と笑っていた。

 一人になった家で、身の回りの物を荷造りしていく。

 この家に来た時は、本当に小さな鞄ひとつに纏まるだけの荷物だったけど、今回は画材道具も必要最低限の物は持っていかなければならない。

 あまり荷物が増え過ぎたら、教授に迷惑をかけてしまうから、厳選したつもりでも、小さめのキャリーバックがいっぱいになってしまった。

 *

 キャリーバックを玄関に下ろし、もう一度戸締りの確認をして回っていく。

 2階の部屋を確認して階段を下りていくと、吹き抜けのリビングに明るい朝の光が心地良く射し込んでいる。

 昨夜二人で夕飯を食べた食卓の椅子に腰を下ろし、小さく息をつく。

 カズヤさんとは、ここで色んな会話をした。

 最初の頃は、口数の少なかった僕に、根気強く話しかけてくれていたっけ。

 休みの日は、会話がなくてもここでカズヤさんは新聞を広げたり、僕は好きな本を読んだりして過ごした。

 料理は僕もあまり得意とは言えなかったけど、それまでキッチンに立つことのなかったカズヤさんが、教えてほしいと言うから、料理の本を買ってきて二人で頑張って作ったりもした。

 ――今ではカズヤさんの方が、レパートリーも多くて上手いけど。

 たった5年だったけど、カズヤさんは優しい思い出をたくさんくれた。そのどれもを絶対に忘れない。

『僕がここを出たら、カズヤさんはまた実家で暮らすの?』

 ここは僕を引き取るために買った家だったから、そうするのかなと思って訊いた僕に、カズヤさんは『まさか!』と、言って笑っていた。

『ここは伊織の家なんだから。無くなってしまったら君が里帰りできなくなってしまうだろう?』

 まるで娘を嫁に出す父親みたいな事を言っていた。

 でも……ありがとう。ここは僕の家だから、またすぐいつでも会える。

 これは別れなんかじゃないんだから……。

 




fjossyで読む←(先行して更新しています)


ぽちっと↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

0 件のコメント:

コメントを投稿