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(18)
フーッと吐き出した紫煙が、テレビ画面から放たれる光の中を漂っていた。
「部屋の中で吸わないでください。匂いが移ってしまう。」
「ごめん。」
素直に謝って、すぐに灰皿に煙草を押し付けると、立ち上がってベッドへ近付いてくる。
「でも、そう言いながらもちゃんと灰皿を用意しておいてくれるんだから、千聖は優しいよな。」
そう言って、屈むと俺の額に、リップ音を立ててキスを落とした。
西脇さんは、俺がうとうとしていた間に、もう服をちゃんと着込んでいる。
さっき座っていた、クッションソファーの横には、ハンガーに掛けてあったはずのコートが置かれていた。
「…… 帰るんですか。」
質問に「うん。」と頷いて、「また来週くるよ。」と、当たり前のように言う。
たまには泊まってくれれば良いのに…、なんて、決して口には出したくない言葉が胸を過る。
「そんな拗ねたような顔するなよ。帰り難くなるだろう?」
そう言って、ベッドの縁に座って、肌に掛けていた毛布ごと俺の身体を抱き寄せた。
「な、何がですか?なんで俺が拗ねるんですか。」
心の内で考えたことを、顔に出したりなんて、絶対してない自信はあるのに、決まってそう言われる。
きっと、こういうシチュにも慣れているからなんだと、思った。
「そうだ、千聖って誕生日いつ?」
不意に訊かれた質問に、俺は一瞬答えることを躊躇した。
だって、絶対笑われる。
「…… 二月十四日ですけど……。」
「マジで?」
ほらね。西脇さんは、目を丸くして、口元に手を当てて、笑うのを我慢しているように見えた。
「笑いたければ、笑ってくれて良いですよ。」
バレンタインデーが誕生日なんて、ネタにされるだけだって、今までの経験から諦めてる。
だけど西脇さんは、驚いた表情はしたけれど、笑ったりしなかった。
「なんで笑うの。凄いじゃん、絶対忘れたりしないよ。」
そう言いながら、西脇さんはローチェストに置いてあるカレンダーに手を伸ばした。
「二月十四日って、土曜日か……。」
―― ああ、土曜日になんて、逢えるわけないよね。
続きます。。
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