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2015年12月13日日曜日

R18BL短編『うそつき』(28)【完結】

はじめて読む方は、こちらから。




(28)


 ―― そんな顔したって、もう騙されないぞ。

 俺は西脇さんに背を向けて、鍵穴に鍵を差し込んだ。

「帰ってください。」とだけ、振り絞るように声に出して、差し込んだ鍵を回すと、ガチャンと、鍵の開く音が、アパートの静かな廊下に響いた。


「…… ごめんな。」


 短い言葉と共に、頭の上に感じた掌の温度は、でもすぐに離れていく。


 ―― 何、謝ってんだよ。


 今、傍にあった気配が、足音と共にゆっくりと離れていくのが分かった。


 ―― なんだよ、また何も言わない気かよ。


 ドキドキと、心臓が煩い。分かってる…本当は俺、全部気が付いているんだ。いつも強引で、自分勝手で、嘘つきで。


 だけど……、


「―― 待てよ!」


 考えるよりも先に俺は振り向いて、階段を下りて行く嘘つきの背中を追いかけた。

 貴方は狡いよ。また何も言い訳もせずに行ってしまおうだなんて、許さないんだからな。

 それでカッコ付けてるつもりかよ、分かってんだから。

 高岡さんが言いにくそうにしていたのは、きっと二人が離婚したから。

 あの時の奥さんのお腹だって、妊娠しているように見せかけていただけで、それを見ても何も言わなかったのは、貴方も、奥さんの悲しい嘘を見抜いていたから。


 俺に言ったあの最後の言葉だって――


「―― うっわ!」


 階段を下りて行く嘘つきの背中に飛び付いて、バランスを崩して、数段二人で転げ落ちても。


「―― 痛ってー! 酷いなぁ、千聖は。」


 腕の中で、俺のことを庇いながら倒れたことも、ちゃんと分かってるんだからな。

 倒れた西脇さんの身体の上で、俺はその顔を両手で挟んで、唇を押し当てた。

 もうその唇が、優しい嘘を吐かないように……。

 驚いている顔がおもしろくて、俺は唇が僅かに触れるくらいの距離で、笑い声を漏らした。


 ――ああ、なんだか俺も言ってみたくなってきたな、あの言葉。


「――愛してる。」


 これは嘘なんかじゃないよ。俺の本心。

 さっきよりも、目を丸くして驚いている彼にもう一度口付けをして、あの言葉を繰り返した。


「愛してる…… 志芳。」



                                 
 ― うそつき ―(改稿版) end 

 2015/12/12





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